ドイツ語の奨め

ドイツ語の奨め

  日本が近代化を推し進めていた19世紀末から20世紀初頭は、ドイツにとっても興隆の時期で、あらゆる分野で世界をリードする力を示していました。そんなドイツは日本のお手本であり、かつての大学生はみなドイツ語を習得したものです。

  現代では学問の中心はヨーロッパからアメリカに移り、また英語が世界中の人々を結びつける共通語の役割を担うようになっています。この意味で、ドイツ語の教師であるわれわれも、筑波大生はまず英語をしっかり身につける必要があると言わなければなりません。社会で活躍するにしろ、研究者の道に進むにしろ、仕事が十分できるだけの英語力を是非身につけてください。

  さてその上で、私たちドイツ語スタッフは、英語以外の外国語、とりわけドイツ語の習得を強くお奨めしたいのです。といっても決して身びいきの宣伝をしようとしているのではありません。ドイツ語を習うことが将来の日本を担うあなた方にとって大きな意義を持っていると信じるからです。

  世界の言語の中には、もともとの地域を越えて世界的に使われるようになった言葉があります。かつてのラテン語がそうでした。現代では言うまでもなく英語がそれにあたります。英語はイギリスやアメリカという地域の言語でもありますから、イギリス文化、アメリカ文化に深く触れたい、という人は地域の言語としての英語という立場で習うべきでしょう。しかし日本の大学でまず求められるのは、世界のどこでも通じる言葉としての英語、お互いにネイティヴでない人同士でも意思を通じ合うための道具としての英語です。このような言葉は、ビジネスでの交渉や学術論文の発表、観光地での買い物のような目的では必要不可欠ですが、日本人にはそれでだけでいいのでしょうか?

 

文化と外国語学習

  「文化」とは、家族から始まって地域、民族など様々なレベルでの人間の集団が、長い時間の継続の中で形成してきた生の在り方の総体を指す概念のことです。いわゆるグローバル化が進行した今日の世界では、このような意味での文化を、それぞれの集団が互いに理解し合うことがきわめて重要になっています。他の人々の文化を表面的に理解して、自分たちに都合のよいところだけを見るような態度は国際社会に不幸な結果を招くことになるでしょうし、そのような不幸な未来の兆しが既に表れていることも、残念ながら否定できません。もし日本人がこれからの日本を、自分たちの主張だけが正しいと考え、自国の発展だけを目指すような偏狭な国ではなく、他国から尊重され、それなりの重みを持つ国として発展させていきたいのならば、他の国の言葉を学ぶこと、特に文化を背景に言葉を学ぶことが是非とも必要です。他の国の文化を理解することは、同時に自分の国の文化を豊かにし、さらには現代に生きるとはどういうことかを知ることにつながります。

 

ドイツ語でドイツを知る、世界を知る

  私たちはドイツについてどのようなことを知っているでしょうか?哲学や芸術の国、勤勉な国民性、ロマンティックなお城や町並み、ビールを飲んで歌う人々、サッカーの盛んな国等々でしょうか?それらも間違いではありません。最初に抱く関心のきっかけとしてはそれでいいのですが、大学で勉強する以上はさらに広く深い理解に進んでほしいと思います。

  ドイツは日本と同じ工業先進国です。人々の生活レヴェルも日本とほぼ同じ、ものの考え方にも多くの共通性があります。また社会が抱える問題にも、若者の就職難や高齢者問題を初めとして日本にとっても切実なものが多くあります。一方ドイツは近代の日本にとってヨーロッパ文化の仲介者として重要な国でした。多くのことをドイツから受容してきたのです。世界のどんな国でも、その国に関心を抱き、文化を理解することには意義がありますが、ドイツを理解することはこのような意味で日本人にとって他にはない重要性を持っているのです。

  言葉を習得することは、言葉の知識を身につけることではありません。言葉を使う行為によって、コミュニケーションを、そして文化を経験することなのです。おなじみのドイツ、もう知っているつもりのドイツを超えて、現代のドイツをドイツ語を通じて体験しましょう。

 

ドイツ語の大きさ

  ドイツ語の母語話者数は約9千万人で、ロシア語を除くヨーロッパの諸言語の中では第1位、世界全体では日本語に次いで第10位です(ヨーロッパ域外ではむろん英語やスペイン語などの使用人数はドイツ語より多くなります)。

  いわゆる母国語としてドイツ語が使われている国は、ドイツ連邦共和国のほか、オーストリア、スイス、リヒテンシュタインがあり、またルクセンブルクでは公用語の一つとなっており、北イタリア、ベルギーの一部にもドイツ語を話す地域があります。フランスのアルザス・ロレーヌ地方では地域の公用語として扱われています。このようにドイツ語はヨーロッパの中で非常に広範囲に使われている言語であり、ドイツ語を習得することはヨーロッパへの玄関口を通過することにほかなりません。

 

夏期ドイツ語研修

  筑波大学はドイツの3つの大学、バイロイト大学、ボン大学、ベルリン自由大学と協力協定を結んでいて、研究者の交流や留学生の受け入れ、派遣を行っています。

とりわけ外国語センターと関係が深いのはバイロイト大学です。

  バイロイト大学では毎年8月にSommeruni(夏期大学)の一環としてドイツ語コースを開催しており、これに参加すると筑波大学卒業用件の内自由科目3単位が取得できます。

  バイロイト大学はドイツの大学の中でも、特に異文化理解を基軸にしたドイツ語教育の研究では指導的な地位にある大学として知られており、われわれ日本人のドイツ語学習にとってはこれ以上望み得ない場所といえます。

  バイロイトはバイエルン州北部のフランケン地方に位置し、旧東ドイツに属していたチューリンゲン州やチェコとの国境まで程遠くない距離にあります。リヒャルト・ヴァーグナーが自分のオペラを上演するために建てた祝祭劇場の所在地として有名ですが、プロイセン王の分家に当たるバイロイト辺境伯が城を構えていた伝統ある城下町でもあります。周囲は緩やかな丘と森が連なる、典型的なドイツの小都会です。

  研修参加の条件は、ドイツ語を1年以上学習した学生としていますが、1年次生やドイツ語未習の場合は、ドイツ語担当教員に相談してください。

  この研修の説明会は、毎年4月末、または5月初めに行っていますので、関心のある人は掲示等に注意していてください。