ロシア語とロシア語圏文化の魅力
北海道稚内からロシア・サハリンまでの距離はわずか43キロ。長崎県対馬から韓国・釜山までの距離(49.5キロ)よりも近い。東アジアの隣国の中で、地理的に最も近い国は、実はロシアなのです。
ロシアは、アジアからヨーロッパに跨がる広大な大地を持つユーラシア国家です。石油、天然ガス、木材、鉄鉱石、金、ダイヤモンドなどの天然資源に恵まれ、資源大国として現在、急速に経済発展を遂げています。
近年では自動車産業を中心に、日本の企業の進出も活発です。トヨタ自動車がサンクトペテルブルク市に「カムリ」などの生産工場をつくり、2007年12月から操業しています。日産自動車も2009年6月に操業を始めたサンクトペテルブルク工場で現在3車種(「ティアナ」「エクストレイル」「ムラーノ」)を生産しています。
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の中でも経済成長著しいロシアと日本との経済関係が発展していく中、特に経済界においてロシア語運用能力を持つ人材の極端な不足が指摘されています。そのために今ひそかにロシア語に対する熱い視線が注がれています。
ではロシア語は、一体どのような言語でしょうか?
一言でいうと、英語の遠い親戚関係にある言語、より正確にはインド・ヨーロッパ語族スラヴ語派に属する言語です。英語と親戚というのは、意外に思われたかもしれません。ただアルファベットがローマ字ではなく、キリル文字というのがまず大きく違う点です。文法は語形変化が豊かなので、英語よりも複雑に思えるかもしれません。しかし、ロシア語の響きは柔らかく、力強く、そして美しい─そこに多くの学習者は魅力を感じているようです。
ロシア語話者は、世界にどの位いるのでしょうか?
正解は、推測で約2億8000万人です。
ロシア語が通用する国々は、意外に多く15カ国存在します。これは、かつての社会主義時代国家であるソ連邦(1917~1991)に統合されていた歴史に起因しています。
ロシア語圏の15カ国のうち、特にロシア(1億4296万人[1])、カザフスタン(1603万人)、ベラルーシ(960万人)、キルギス(533万人)の4カ国は、ロシア語を公用語に定めています。しかし、ウクライナ(4545万人)、ウズベキスタン(2744万人)、アゼルバイジャン(919万人)、タジキスタン(688万人)、トルクメニスタン(504万人)、グルジア(435万人)、モルドバ(357万人)、リトアニア(332万人)、アルメニア(309万人)、ラトビア(225万人)、エストニア(134万人)では、ロシア語が法的な地位を持っていません。ソ連時代と比べてロシア語使用の衰退化傾向が見られるものの、ロシア語が日常レベルでは今でも幅広く使用されています。
また15カ国以外にもアメリカ、カナダ、オーストラリア、イスラエルなどに移民したロシア系ディアスポラの間でも一定の程度ロシア語が使われています。
このように、ロシア語圏といってもロシアを中心に15カ国の広がりを持っていますので、言語や文化を取り巻く状況は単純ではありません。民族(120以上)、言語(120以上のうち、少なくとも70が文字言語)、宗教(キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教他)など、文化・社会的背景が異なる多言語・多文化社会です。まさにロシア語圏は、文化的多様性の宝庫なのです。この多様性を学び、その魅力に迫ることばのツールこそが、ロシア語というわけです。
筑波大生は、ロシア語を学ぶという意味では本当に恵まれた環境にあります。「ロシア語基礎」という授業は、週に2回ありますが、そのうちの1回はネイティヴの先生が担当しています。しかも、日本語は原則として使いませんので、ロシア語だけの授業です。これは、言わば、学内留学ともいうべき本場ロシアの教育環境に近いものです。夏には、希望すれば、協定大学であるロシア・サンクトペテルブルグ国立大学文学部に約3週間の語学研修にも参加することができます。また、ロシア語圏の協定大学は、以下の19大学に及び、交換留学生として1年間本場のロシア語を徹底的に学ぶことができます。これは、おそらく日本随一の留学環境です。
【ロシア連邦】
サンクトペテルブルグ国立大学,モスクワ市立教育大学
【ウクライナ】
キエフ国立大学
【ベラルーシ】
ベラルーシ国立大学
【リトアニア】
ヴィリニュス国立大学
【ラトヴィア】
ラトヴィア国立大学
【エストニア】
タリン国立大学
【ウズベキスタン】
タシケント国立東洋学大学,世界経済外交大学,サマルカンド国立外国語大学
【カザフスタン】
カザフ国立大学,ユーラシア国立大学,カザフ経済大学,カザフ国際関係外国語大学
【キルギス】
ビシュケク人文大学,キルギス民族大学,キルギス国立大学
【タジキスタン】
ロシア・タジク・スラヴ大学
【トルクメニスタン】
国立アザディ世界言語大学
また、ロシア語の知識をベースにして、交換留学生としてチェコのカレル大学でチェコ語やポーランドのワルシャワ大学やヤギェウォ大学でポーランド語を学ぶこともできます。
これまでに外国語センターのロシア語を履修した筑波大生を約100名交換留学生として派遣していますが、ビジネスマン、公務員、大学教員、団体職員など多くの有為の人材を数多く輩出しています。
このように筑波大学において、未来の扉への確かな可能性を感じさせてくれるロシア語を学ぶ環境は整っています。後は、学生の皆さんがこの恵まれた環境をどう活かすのかにかかっています。
では、教室で会いましょう!
До встречи!(この表現の実際の発音は授業で確認します)
(文責:臼山 利信)
*ロシア語圏の留学に関心のある学生は、「世界の多様性を実感する─筑波大学のロシア語圏留学のすすめ─」(ウェブマガジン「留学交流」,2012年11月号Vol.20)をご覧ください。http://www.jasso.go.jp/about/documents/usuyamatoshinobu.pdf
[1] 人口の数値は国連の人口推計(2011)に依拠している。
- 2013年12月5日
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